[週刊住宅]連載

地主、不動産オーナーの信託活用講座

第8回
 信託の便利な機能を活用する(継ぐ機能)
                     

株式会社継志舎 代表取締役 石 脇 俊 司


週刊住宅 2022年12月12日号 掲載

 前回は、信託の便利な機能の1つ「分ける機能」について説明しました。財産を所有する者が一体に持つ権利、「管理・処分する権利」と「使用・収益を得る権利」を信託の利用で別々の者に分けることができることを説明しました。
 今回は、信託の便利な機能の1つ「継ぐ機能」について説明します。
 財産の所有者が所有する財産を他者に渡すには、財産を譲渡する方法があります。譲渡は有償と無償で行うことができ、無償で行う譲渡は贈与です。
 財産の所有者が亡くなったときには、その財産は財産所有者の相続人に継がれます。財産所有者が、相続人のうち特定の人または相続人以外の人に財産を遺贈したければ、財産の所有者は遺言を作成します。財産所有者の遺言がなければ、相続人が協議して遺産の分割を行います。
 信託を利用して、信託する財産(信託財産)を特定の人に承継することができます。信託契約などの信託行為に、信託財産を帰属させたい人を指定し、遺言のように財産の承継先を指定することができます。これが、信託の「継ぐ」機能です。
 信託された財産は、通常の相続の手続きとは別に財産の承継手続きが行われます。信託の開始時に、信託財産の所有権は委託者から受託者に移転します(所有権の移転)。財産の所有権が受託者に移転しているため、信託財産は信託前の所有者であった委託者の所有物ではなくなります。委託者の所有物でないため、委託者が亡くなったときには、信託財産は委託者の遺産にはなりません。委託者の遺産ではないため、信託財産は委託者の相続手続きの対象になる財産とはなりません。
 多くの信託では、委託者が信託財産の利益を得る受益者になります。委託者は財産の所有権を受託者に移転し財産の管理・処分を受託者に任せ、受益者として信託前と同様に財産の収益を得ます。
 信託の「継ぐ」機能には2つの継ぎ方があります。1つは、委託者である受益者が亡くなったときに信託財産を「継ぐ」ことです。委託者である受益者が亡くなったことを事由に終了する信託を設計し、信託財産を継ぐことに利用します。委託者は信託行為に信託財産を継がせたい人(帰属権利者等)を指定します。信託期間中、信託財産の所有者である受託者は、信託が終了すると信託を清算し、残った信託財産の所有権を帰属権利者等に移転します。
 もう1つは、信託財産の収益を得る権利を「継ぐ」ことです。委託者である受益者が亡くなっても信託は終了せず、次の受益者として指定された人に信託財産の収益を得る権利を継ぐことができます。これは、「受益者連続型信託」といって、信託でしか実現できない方法です。委託者である受益者が亡くなるまでは自身が信託財産の収益を得て、亡くなった後は配偶者が収益を得るような形での利用ができます。配偶者は信託財産の管理を受託者に任せて、信託財産の収益を得ることができます。
≪データを示すコラム: 法務省 遺言の作成数≫
 日本公証人連合会では、毎年の遺言公正証書の作成件数を公表しています。令和3年の遺言公正証書作成数は10万6028件でした。
 一方、信託契約公正証書の作成件数ですが、令和2年のデータでは、2924件でした。

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