前回は、信託を引き受けた受託者が行う仕事、とくに信託目的を達成するために行わなければならない義務についてとりあげました。
今回は、信託の便利な機能の活用法について説明します。
財産を所有している人は、法律の制限内において、所有する財産を自由に使用すること、収益を得ること、処分することの権利を持っています。この権利は所有権として民法に定められています(民法206条)。財産の所有者が、これらの権利を一体に有しているため、他者が勝手に所有者の権利を行使することはできません。
所有者の判断能力が著しく低下してしまうことにより、所有する財産の処分ができなくなることがあります。例えば、所有者が認知症になってしまったときなどです。財産所有者の福祉を確保するために、所有する財産の売ることが必要となっても、所有者が意思能力を有していなければ、所有する財産を売る契約を結べません。意思能力を有していない人は、売る契約ができないということも、民法に定められています(民法3条の2)。
不動産所有者が不動産を有効活用して収益を得たくても、所有者の意思能力が欠けてしまうと、収益を得るための契約行為ができなくなり困ってしまいます。高齢者が収益不動産を所有している場合には、将来においてその方が認知症になってしまうと、その不動産について手続きができなくなってしまいます。利用する・収益を得る・処分する権利が一体となっていることから、不動産所有者の財産を有効に活用することが不可能になります。
そこで、信託の利用を考えます。信託で、一体となった所有権の権利を分けることができます。
不動産の所有者が不動産を受託者に信託します。信託した不動産(信託財産)の所有権は、所有者(委託者)から受託者に移転します。受託者は信託財産の所有者として、信託財産について管理・処分権を行使し、信託財産の収入を得ます。
受託者は信託財産の管理・処分で得た収入を受益者に給付します。受託者は信託財産の所有者であるものの、信託財産の収益は受託者に帰属せず、受益者のものとなります。収益不動産を信託することで、不動産の管理・処分権は受託者に、不動産の利用・収益権は受益者にと「権利を分ける」ことができます。収益不動産を信託した委託者が受益者になる信託とすれば、委託者は自身で管理・処分をすることなく、引き続き不動産の収益を得ていくことができます。