[週刊住宅]連載

地主、不動産オーナーの信託活用講座

第7回
 受託者は信託の目的を達成するために仕事する
                     

株式会社継志舎 代表取締役 石 脇 俊 司


週刊住宅 2022年10月17日号 掲載

 前回は、どのような資産を信託するとよいのかについて説明しました。財産ごとにどのような信託利用のニーズがあるかについても取り上げました
 今回は、信託を引き受けた受託者がどのような仕事をするのかについて説明します。
 まず初めに、信託の受託者はとても大変な義務を負うことを知っていただきたいと思います。信託の引き受けを業とする信託業では、信託会社や信託銀行(以下、信託業者といいます)が受託者となります。信託業者は営業のために信託を引き受けます。
 一方、家族信託は、営業のためではなく、資産を所有する人のためにその人の家族が受託者となります。営業のためではない家族信託でも、受託者として行わなければならないことは同じなのです。
 受託者は、信託の目的を達成する義務があります。信託する財産を持っていた委託者が、信託することでその財産について実現したいことの思いが、信託目的です。その信託目的達成を達成するために、受託者に課される義務は以下のようなものがあります。
① 信託事務処理の義務
 委託者と信託契約を結び、信託を引き受けた受託者は、信託契約に定められた内容に従って事務(信託事務)を処理します。信託契約に規定されたことについて形式的に事務処理することでは足りず、信託した委託者の意図に従うことまでも必要とされています。
② 分別管理の義務
 受託者を務める人が持つ自身の財産と信託財産とを分別して管理します。信託財産がお金のときは、そのお金を管理する専用の口座を金融機関に開設して、その口座で管理します(この専用の口座を信託口口座といいます)。信託財産が不動産のときは、その不動産が信託財産であることを登記して管理します。信託財産の不動産を賃貸することで得る賃貸料は、信託財産として上記の専用口座で管理します。
③ 帳簿の作成と報告の義務
 信託財産について帳簿を作成します。1年に1回信託財産について財産状況を開示するために貸借対照表や損益計算書などの書類も作成します。委託者と受益者に信託財産の管理などの事務処理の状況や信託財産の状況を報告します。
④ 忠実義務
 受託者は、委託者から信託された信託財産を受益者のために管理します。受益者は信託財産の利益を得るなどの権利を持つ人です。受託者は受益者の利益を損ねないよう、受託者又は第三者の利益を図るような行使をしてはいけません。受益者のために忠実に信託事務処理をしていきます。
 上記の義務以外にも、善管注意義務、公平義務などがあります。
 また、受託者には、義務を達成するために行える権限も与えられます。その権限は信託契約で制限をつけることもできます。
《データを示すコラム:信託財産の総額(信託協会のデータ)》
 一般社団法人信託協会では、信託に関する各種の統計データを開示しています。このデータは、信託業者が引受けた信託に関するものです。一例としてあげると、資産流動化の信託や土地信託の受託件数について、2020年には資産流動化の信託は9,004件、土地信託は241件の受託がありました。

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