前回は、地主・不動産オーナーが所有する大切な不動産を、自身で処分等せずに受託者に任せるのは、どのようなときなのか?について説明をしました。
今回はそれをふまえて、どのような資産を信託するとよいのかについて説明したいと思います。
この連載の第2回に、信託は、任せる人が持つ大切な財産を、任された人が管理、運用、処分(以下、処分等といいます。)する制度と説明しました。財産を持つ人は、その財産を、自由に使う・収益を得る・管理する・処分する権利(所有権)を持っています。この権利は、財産を持っている本人の権利であり、本人がその権利を行使しなければなりません。しかし、本人がその権利行使にあたり、いろいろなことを判断する能力が大きく低下してしまうと、権利はあるものの、行使することができなくなってしまいます。現在の民法では、法律行為(契約)の当事者が意思表示をしたときに意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効になります(民法3条の2)。管理・処分に契約が必要となる財産は信託する財産の候補となります。
財産を持つ本人の家族が信託を引き受けて、家族が財産を管理する家族信託では、以下のような財産が信託されています。
① 自宅
高齢になり、自宅で生活することも大変になったら、施設に入所し安心に暮らしていきたいと希望する方もいらっしゃるでしょう。施設に入所後、自宅には誰も住まないとなれば、自宅を貸す、または売却することもあるでしょう。将来の自宅の管理・処分を家族に任せるため自宅を信託する方がいます。
② 預金(お金)
預金からまとまった金額を引き出すには、本人が金融機関に手続きをしなければなりません。入院などの理由で本人が金融機関の店頭で手続きできないことへの備えとして、代理人を指名してあらかじめ金融機関に届け出ることで、代理人が預金の引き出しをすることができます。しかし、本人の判断能力が著しく低下していると金融機関が判断したときは、金融機関はその預金口座の取引を停止します。本人の判断能力が低下しても必要な資金を預金から引き出して使えるよう、本人の預金からお金を引き出し、そのお金を信託財産として、信託を引き受けた家族が管理できるようにします。
③ 賃貸建物などの不動産
賃貸建物は、賃貸契約、賃貸管理、修繕、建替え、借入金の返済など所有者は多くのことを行っていきます。本人の判断能力が大きく低下してしまうと、これらの手続きは一切ストップしてしまいます。信託することで、信託を引き受けた家族が管理・処分することで、賃貸建物の価値を維持することができます。
また、将来、売却を予定している不動産も信託することで、信託を引き受けた家族が売却できるようになります。
④ その他
上場株式や投資信託などの有価証券、地主・不動産オーナーが経営する会社の株式(自社株式)などを信託財産として、信託の引受けた家族が管理することができます。
その財産を特定の人に承継したいという場合にも信託は利用できます。遺言と同様に、財産の承継にも信託を利用します。