[週刊住宅]連載

地主、不動産オーナーの信託活用講座

第5回
 どのようなときに信託するとよい?
                     

株式会社継志舎 代表取締役 石 脇 俊 司


週刊住宅 2022年8月15日号 掲載

 前回は、家族信託について説明をしました。信託のなかでも、委託者が信頼する家族を受託者として、その財産を託す信託のことを家族信託と言い現わしていること。家族信託は、信託法などの信託を規定する法律に定められたものではなく、一般社団法人家族信託普及協会が商標登録したものであること。メディア等でも広く使われており、家族の資産を家族で守る信託の仕組みをわかりやすい言葉で言い表していること、などについて説明しました。
 今回は、地主や不動産オーナーが、どのようなときに信託を利用するとよいのかについて説明したいと思います。
 連載の第1回に「任せるからいいようにやっておいて」のたとえ話で信託を説明しました。資産に関して目的(信託目的)を実現するために、その資産(信託財産)を受託者に移して(資産の所有権を移転)、受託者に信託財産の管理・運用・処分(以下、処分等といいます)を任せる仕組みが信託と説明をしました。受託者は、信託目的を実現する義務を負って、信託財産の利益を得る受益者のために信託財産の処分等していきます。
 では、地主・不動産オーナーが所有する大切な不動産を、自身で処分等せずに受託者に任せるのは、どのようなときなのでしょうか? 
 まず、地主・不動産オーナーが高齢になり、自身で所有する賃貸不動産の管理が手間になっている又は難しくなっているときの利用が考えられます。判断能力が低下し、さらにその低下が進むことが予測される地主・不動産オーナーも信託を利用するとよいでしょう。賃貸不動産は賃貸管理、建物の修繕、修繕のための資金準備や費用の支払いなど多くのことを行わなければなりません。高齢になり、判断する能力が弱くなった地主・不動産オーナーは、賃貸不動産について信託を利用することで、自身で賃貸不動産を管理することなく、一切の手間を受託者に任せることができます。
 また、賃貸事業を新たに始めることを考えている高齢な地主・不動産オーナーも信託の利用を検討するとよいでしょう。賃貸事業を始めるには、建物建築の計画、建築業者の選定、建築資金の資金を調達するために金融機関に交渉するなど多くのことを行わなければなりません。さらに、建物建築後には賃貸管理も地主・不動産オーナーが行っていかなければなりません。今後長く続く賃貸事業を、高齢になってから始めるのもかなり大変なことと思われます。信託を活用して地主・不動産オーナーの手間を無くすることができると便利でしょう。
 さらに、高齢な地主・不動産オーナーが今後売却を検討している不動産や買い替えを検討しているときにも、受託者が売却や買い替えができるように、信託を利用するとよいでしょう。売却や買い替えをしようと思ったときに、地主・不動産オーナーの判断能力が著しく低下していると、現在の法律では売却することができなくなっています。
 賃貸不動産を信託財産とする信託は、家族が受託者となる家族信託でも、信託会社などが受託者となる信託(商事信託)でも可能です。しかし、商事信託では、受託者が引受けられない不動産もあるため注意が必要です。信託を検討したい不動産の引受けは可能か、事前に確認する必要があります。
《データを示すコラム:高齢者が所有する賃貸住宅》
 総務省のデータによると、家計を主に支える者の年齢階級が高いほど、現住居以外の住宅を所有している世帯の割合が高いようです。
2018年10月1日現在の統計では、総世帯数は5400万1千世帯。現住居以外の住宅を所有している世帯について、家計を主に支える者の年齢階級別にみると、「65~69歳」が78万7千世帯と最も多く、次いで「70~74歳」が66万4千世帯となっています。
今後、賃貸不動産の所有者が高齢となり、信託の利用を検討する人も増えてくるものと考えられます。

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