前回、「任せるからいいようにやっておいて」のたとえ話で信託が便利なことについて説明しました。今回は、信託の仕組み、そのなかでも委託者・受託者・受益者について、3つのポイントから説明します。
まず、ポイントの1つ目。「いいようにやっておいて」と言って任せた人と、「いいようにやること」を任された人、この2人の間に強い信頼関係が築かれていなければ、信託はできないということです。
信託は、任せる人が持つ大切な財産を、任された人が管理、運用、処分(以下、処分等といいます。)する制度です。大切な財産の処分等を任せるのだから、相手を信頼していなければ、任せられません。また、任された人は、任せた人にとって「いいように」なるように、その財産を処分等する義務を負うことになります。また、そのような義務を負うのは信頼する相手だからこそ引き受けられるのです。
信託の法律(信託法)では、任せた人を「委託者」、任された人を「受託者」といいます。委託者は、自分が持つ財産のうち信託を利用したい財産を、受託者に移転して、その財産の処分等を任せます。この受託者への財産の移転が、2つの目のポイントです。
財産を持つ人は、その財産を、自由に使う・収益を得る・処分する権利(所有権)を持つと、法律(民法)に定められています。財産の所有者でない人が、勝手に他人の財産を処分すれば、それは法律に違反することになります。しかし、信託では、委託者の持つ財産の処分等を受託者に任せる制度です。信託の利用で法律に違反しないよう、信託する財産の所有権を委託者から受託者に移すことが必要です。財産の所有権を移すという大変なことを行うため、委託者と受託者の両者の信頼関係がなければ成り立たないのです。
財産の所有者は、その財産の収益を得る権利を持っています。では、委託者が信託を利用することで、財産の所有権を受託者に移転すると、受託者がその財産の収益を得る権利を持つのでしょうか? 信託では、委託者と受託者に加えて、信託された財産の収益を得る権利を持つ受益者という立場の人がいます。
財産を所有する人が持つ所有権の内容には、財産の管理や処分する権利と、財産の収益を得る権利があり、所有者は両方の権利を持っています。信託を利用すると、財産の管理や処分する権利は受託者が持ち、財産の収益を得る権利は受益者が持ち、所有権の権利の内容を分けることができます。これが3つ目のポイントです。
地主・不動産のオーナーの信託では、委託者は地主・不動産オーナーです。地主・不動産オーナーが信頼する人を受託者として不動産の処分等を任せ、地主・不動産オーナーは受益者となり、引き続き不動産の使用や収益を得る受益者となることができ、このような信託が多く利用されています。