[週刊住宅]連載

地主、不動産オーナーの信託活用講座

第1回
 信託するって、何? 何が便利なの?

株式会社継志舎 代表取締役 石 脇 俊 司


週刊住宅 2022年4月4日号 掲載

 「任せるからいいようにやっておいて」
 読者の皆さんは、このような言葉を言った経験、お持ちではないですか? 
 自分で行うのは大変だし、手間がかかるから、あなたに一任するから、いいようにやっておいてと。そして、任せた相手が、あなたの思った通りにことを片付けてくれたら、あなたはとても満足することでしょう。あなたは手間や時間をかけることなく、こうなって欲しいと思っていたように、任せた相手がうまくことを終えてくれたのですから。
 あなたのために「いいようにやって」くれる人がいたら、この世の中、とても便利だと思いませんか? そんな夢のようなことを思っている筆者は、読者の方々に比べ、ただ単に「なまけ者」なのかもしれません。自分でできるのに、手間や時間がかかるからといって、人に「いいようにやっておいて」とは、大変虫のよすぎる話です。
 実はこの「任せるからいいようにやっておいて」が、これからこの連載で皆さまにお伝えしていく「信託」なのです。このようなたとえで信託を説明すると、学者や専門家の方々から、お叱りをうけそうですが、筆者は、この「任せるからいいようにやっておいて」のたとえ話は、読者の皆さんに、信託をイメージしていただくにはよいたとえと思っています。
 このたとえ話、実は言葉が不足しています。「私のために」いいようにやっておいて、と補うのがよいかもしれません。お願いを引き受けた人は、「お願いした人のためにいいように」なるように、ことにあたり、「いいように」しました。お願いを引き受けてくれた人のおかげで、お願いした人は大満足な状況を得ることができたのです。
 信託は、お願いする人とお願いを引き受ける人との信頼関係のもとに成立します。そして、引き受けた人は、お願いした人のために、ことを成し遂げなければなりません。この両者の関係、とくに引き受ける人の依頼者のために尽くす精神と忠実にことを履行する責任感が、信託にはとても重要であり欠かすことができないのです。
 日本はご存知の通り世界一の超高齢社会です。個人差はありますが、歳をとると、だんだん自分でできることが限られてきます。特に、継続的に管理し続けなければならない財産の管理、たとえば賃貸不動産の管理などは、高齢者にとって負荷が大きくなります。
 高齢者が所有する賃貸不動産の管理を、高齢者のために「いいようにやって」くれる人がいて、その人が忠実に賃貸不動産を管理してくれたら、それはとても便利ではないでしょうか。
 この連載では、信託を正しく理解し、適正に活用していただけるよう、簡単な事例などを使い、法律用語なども最小限にして次回以降説明していきたいと思っています。どうぞお楽しみにしていてください。
《コラム》
2025年に、認知症の高齢者の数は、700万人を超え、高齢者の5人に1人の割合に達する(厚生労働省)
令和2年4月1日に改正民法が施行され、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」(民法第3条の2)という条文が新たに追加されました。
この民法から、認知症になると、自身が所有する財産について、所有者本人は法律行為を行えなくなります。認知症になった人が所有する財産の管理・処分ができなくなってしまい、さまざまな問題が生じることになります。
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