[幻冬舎 GOLD ONLINE] 連載
第8回

中小企業の事業承継において重要な「後継者への自社株移転」。社長から後継者への移転を相続で実現する際、準備が甘いと、納税資金の不足や後継者以外の相続人の遺留分侵害といった、対処の難しいトラブルが起きるリスクがあります。リスクを回避、あるいは軽減する具体的な方法と、相続にあたって留意すべきポイントを解説します。 |
社長の自社株を後継者に「相続で渡す」ことを検討しているなら、相続時、確実に自社株が渡るよう、まずは遺言を作成するのがお勧めです(『【中小企業の事業承継】社長が〈承継者に自社株を相続させる〉メリットと課題』参照)。
そして、自社株の相続で生じる相続税は、後継者への事業承継における「コスト」と位置付け、納税を覚悟し、それに向けた準備を行います。これは、突然の相続が生じても、後継者が自社株を速やかに取得し、納税にも対処できるような準備です。自社株承継における節税については、この準備を終えたあとに検討していけばよいでしょう。節税できれば、当初覚悟したコストを削減することもできます。
ここでは、遺言作成後の社長が注意すべき点等について述べてみたいと思います。
遺言を定期的に見直すため「個人資産のB/S」の作成を
社長の資産内容は、遺言を作成したときから、時間の経過とともに変化します。社長が自社株を売却・贈与しなければ、遺言作成後に社長の持株数が変わることはありませんが、株価は変化します。自社株以外の金融資産や不動産は、額と内容も変化していきます。
そのため、遺言を作成したあとも、定期的な遺言の見直しが必要です。資産内容の変化が影響して、相続する資産額が遺留分の額(法定相続割合の1/2。ただし被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合、兄弟姉妹には遺留分はない)に満たない相続人が生じる、ほかの相続人の遺留分侵害には至らなくても、当初の想定より相続額が多くなり、相続税の支払いに課題が生じるかもしれない…といったことが見えてくるかもしれません。
一定の期間を経過した遺言は見直し、必要に応じて書き換えることも必要です。
遺言の見直しは、社長の個人資産の棚卸しと合わせて行います。会社のバランスシート(以下、B/Sと言います)は決算ごとに作成し、社長はそれをチェックします。しかし、社長の個人資産のB/Sを定期的に作成している社長は少ないと、筆者は思っています。会社の顧問税理士は、会社のB/Sを作りますが、社長の個人資産のそれまでも作るとは考えていないでしょう。この記事を読んだ社長は、これを機会にぜひ、社長の個人資産のB/Sを定期的に作り、会社決算を見るのと同じ感覚でそれを眺めてみていただきたいと思います。
個人資産のB/Sを作るとき、不動産や自社株の評価額をいくらにすべきか悩む場合もあるでしょう。作成時点での自社株と不動産の相続税評価額がわかっていればいいのですが、両者の額を把握している社長は多くありません。
自社株や不動産の相続税評価額は、税理士に依頼したうえでコストと時間をかけて作成する必要があるため、ためらう気持ちもわかります。まずは、自社株は会社のB/S上の純資産額で、不動産は固定資産税納税通知書に記載された固定資産税評価額で、社長の個人資産のB/Sを作ってみましょう。
全体資産における「固定資産の割合」に注目!
社長の個人資産のB/Sは「固定資産が資産全体のうち、どの位の割合を占めているか」に注目してみてください。
個人資産のB/Sでは、自社株、会社への貸付金(社長が会社にお金を貸している)を通常のルールに反して、固定資産とします。自社株は有価証券、貸付金は債権なので、通常は流動資産として区分しますが、個人資産のB/Sでは固定資産としてください。いずれもすぐに現金化できない資産のため、社長の相続を考える際には、固定資産として取り扱うほうが、社長の相続の課題を見つけやすくなるからです。
◆固定資産の割合が50%超なら、相続トラブルになるリスクあり
◆固定資産の割合が50%超だった社長は、生命保険の内容を確認
◆万一の「遺留分侵害額」への対応も抜かりなく
個人資産のB/Sで固定資産の割合が50%を超える社長は、生命保険の契約状況を確認し、場合によって追加の契約も検討してみましょう。検討するためにも、まずは、契約している生命保険について管理できるよう、保険契約一覧表のようなものを作成することをお勧めします。
続き>「『相続時、自社株を後継者に渡す』リスクは相当なもの」はこちらからお読みください
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