[幻冬舎 GOLD ONLINE] 連載

株の渡し方で結果が決まる!中小企業「事業承継」の進め方

第5回
 【中小企業の事業承継】社長の生前に〈承継者に自社株を贈与する〉メリットと課題

株式会社継志舎 代表取締役 石 脇 俊 司
中小企業経営者が計画的な事業承継を進めるには、自社株の生前贈与の活用が有効です。生前贈与を利用すれば、社長が存命のうちに、後継者へ自社株を確実に移すことができるからです。後継者が決定した場合の「自社株承継対策」における、具体的で確実な生前贈与の方法を考察します。

贈与の活用は、相続時の懸念は残るも「メリット大」

後継者が決定し、後継者へ確実に自社の経営をバトンタッチしようという社長の意思と、社長から会社を引き継ぎ自身が責任を持って自社を経営するという後継者の意思の2つの意思が固まったら、社長は自身が所有する自社株の生前贈与を検討してみるとよいでしょう。
一方、後継者への自社株の生前贈与には課題もあります。後継者だけに自社株を生前贈与すると、相続時に後継者以外の相続人が、後継者に自身の遺留分を侵害されたと主張することへとつながりかねません。
民法903条には、特別受益者の相続分についての定めがあります。社長(被相続人)から、後継者が贈与を受けていたときには、社長(被相続人)が、相続の時に有していた資産の価額に、後継者に贈与した資産の価額を加えたものが相続財産とみなされることになります。
そのため、後継者が社長から生前贈与された自社株は、相続時に社長の相続財産に持ち戻されます(令和元年に施行された改正法によって、法定相続人に対する生前贈与が特別受益として「持ち戻し」計算の対象になるのは、相続開始前10年間にしたものに限定されることになりました〈民法1044条1項、3項〉)。
社長の自社株は、社長の財産のうち多くの割合を占めています。社長の自社株を、社長の生前に後継者に贈与していくことは、社長の相続時に相続人同士で揉める可能性はあるものの、後継者以外の相続人の遺留分への配慮も行ったうえで計画的に社長の資産を贈与していくことは可能であり、社長から後継者への自社株承継対策として検討に値します。

社長・後継者間で、自社株の贈与契約書を作成しておく

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手側が受諾することによって、その効力を生じます(民法549条)。
社長が後継者に自社株を生前贈与するときは、社長が意思を表示し、後継者がそれを受託することが必要です。対外的に生前贈与が行われていることを示すためにも、社長と後継者の間で自社株の贈与契約書を作成しておきましょう。
贈与契約書は確定日付を取得しておけば、生前贈与の時期も明確にすることができます。また、自社株は譲渡制限の付された株式のため、取締役会や株主総会で後継者へ生前贈与することの譲渡承認を得て、その議事録を残し、贈与後に株主名簿を書き換えておくことも必要です。社長と後継者はこれらの手続きを踏んで、確実に生前贈与を行っていきましょう。

贈与の検討にあたって確認すべき「3つの事項」

生前贈与は、後継者への確実な自社株承継を実現します。しかし、生前贈与により後継者は贈与税の負担が必要となります。社長の相続における相続税の負担軽減の対策として生前贈与を行うことで、後継者の贈与税と相続税のトータルな税負担がいくらになるのか、といった検討を行っていくとよいでしょう。
検討には、以下の3点について事前に調べて明らかにしましょう。
①社長が所有する資産の内訳と現時点での評価額(相続税評価額がわかるとよい)
②社長が被保険者となっている生命保険契約の保険金受取人と保険金額(個人契約と法人契約)
③配偶者の所有する資産の内訳と現時点での評価額(相続税評価額がわかるとよい)
社長が所有する自社株の現時点での株価(相続税評価額)については、直近の決算データをふまえて税理士が株価を算出したものがあればベストです。しかし、毎期、株価を算出している中小企業も少ないと思います。
株価を算出していない場合には、まずは直近決算の貸借対照表の純資産額を把握します。そして、株価算定の際に使用する会社規模の判定条件をふまえ、社長が経営する中小企業はどの会社規模に該当するのかを把握します※。
※ 国税庁(気配相場等のある株式の評価)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/02.htm#a-178
 
当該中小企業が、大会社区分に該当するならば、類似業種比準価額で株価を算定するため、純資産価額を発行済株式数で割って算出した株価に比べて、当該中小企業の1株当たりの株価(相続税評価額)はかなり低くなることが想定できます。当該中小企業の会社規模が小会社に該当すれば、株価を算定する際に、純資産価額の割合が高くなります。そのため、貸借対照表の純資産価額を発行済株式数で割った1株当たりの株価より、1株当たりの株価(相続税評価額)は低い株価となることが想定されるものの、大会社ほど1株当たりの株価は低くなりません。
自社株の税務上の株価について、まずはこのような推定から対策を検討し始めるとよいでしょう(中会社区分では、さらに大・中・小と3区分あり、会社規模が大きくなると類似業種比準価額の割合が多くなります)。
続き>「贈与の期間が長いほど、生前贈与できる資産は多くなる」はこちらからお読みください
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